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海と毒薬

私は趣味で二次創作という物書きの真似事をしている訳ですが、私が文章を書く時の指針とさせて頂いているのは、星 新一・遠藤周作・赤江 曝・西村寿行の諸先生方の作品です。

今日はその中の作品の一つで、遠藤周作の「海と毒薬」の話を。
この話は私の住む街のK大病院で戦時下に行われた生体実験をテーマにした作品です。戦時下での生体実験と言えば森村誠一の「悪魔の飽食」で描かれた731部隊の話は有名ですが、国内でもそれも身近な所ででも行われていた事に初め読んだ時、訳の判らない恐さを感じました。

今年は戦後60周年と言う事もあり、ここ暫くは夏場でもあまり取り上げられなくなっていた【戦争】と言うものに、それも上から見た視線ではなく否応無く【戦争】と言う愚行に巻き込まれ、その手を汚さざるを得なかった人たちの視線で、また何も出来ずにその運命を受け入れていった人たちの姿を伝える報道が多いように感じます。

何気に家族揃って昼下がりの居間で、ダンナがスポーツ中継の合間にチャンネルを変えていて、目に留まった番組。地域の放送局がその時何が起きたのか、何をしたのかの検証番組。
その場面には、何処かで見たことがあるような老医師の姿と、もう長年私の中に【核】の一つとして存在するこの「海と毒薬」の背景が語られていました。
はっとして、体勢を整え画面に見入りました。

老医師はその現場に立ち会った、医学生でした。

直接手術には関与しませんでしたが、その後の軍事裁判にも証人として出廷しています。軍部の力に抗し切れず、またその権勢に乗らざるを得なかったのだろう教授達。【医者】でありながら、生きた人間を助ける為ではなく、あくまでも実験の為に切り刻み…。

遠藤周作はこの作品を書いた事で、随分とまた重たい命題を自分の中に抱え込みました。この作品は実際にあった事件をモデルにしたため、当事者との摩擦が生じるのは仕方がない事だったのです。遠藤周作は作品を通して当事者を弾劾しようとした訳ではなく、【誰の】心の中にもある【罪と罰】を見詰めていたのです。私がこの作品を読んで恐いと思ったのは、平凡な私でさえそんな状況にあれば、この手を汚すかも知れないという恐さだったような気がします。

この老医師は、その現場に居た者の視線からまたこの事件を取り上げた作品を書き上げています。戦場で戦う兵士でもなければ、この現代で【医師】ほど【生と死】の狭間に立つ者はいないでしょう。当時医学生だったこの老医師がその後の選択を、【命の溢れる現場】にしたとしても判る様な気がします。


…老医師は、私が長女を出産した折の主治医でした。途中で息子さんと代替わりしたので、診てもらったのは5ヶ月くらいまででしたが不思議な縁のようなものを感じずにはいられません。


蛇足ですが、私の母は外地生まれです。当時オランダの植民地だったスマトラ島で生まれ、オランダ人学校に通っていました。学校の行事でクリスマス会やお楽しみ会でのディズニー映画の映写会。戦前にフルカラーの白雪姫を観たような人です。戦争が始まり内地に引き上げてきた時、子供心にも国内の様子は色褪せたもので、「ああ、この戦争は負けるな」と思ったそうです。

何が出来るか判りませんし、何も出来ないとも思います。
でも、【思う】事は出来ます。

【戦争】なんて馬鹿げた解決手段は、使ってはならないと。

web拍手コメントレスです。

一度読んでくださったのに、また読みたくなってと連打してくださってありがとう御座います。場面・場面を切り取ったモノローグ構成なSSで、今までの拍手SSとちょっと趣きが変わったなぁ、と自分でも思います。その時、書きたいなぁ、と思ったものを形にするのでこうなっちゃうんですね^_^;
次回は、また今回とは違うスタイルになると思います。こちらも目指せ! 定期的更新!! です。

他にも、たくさんの拍手ありがとうございました。

2005年08月13日 ひとりごと トラックバック:0 コメント:0

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